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偽造ほんわかABCD

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槍兵への愛着MAX
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 ハルトゼイネル魔法学院/ユリ先生



 「いや、特待研究生として入学する人がいるってのは聞いてたけど、まさかこんな子供とは思わなかったよ。あ、この棟は物理魔法科が主に使ってる。科が科だけによくぶっ壊れるんだ。…で、名前は?」
 着いて早々、私は休む暇も無く学院を案内される事になった。二日も飛行鯨の上に乗っていた為だろうか、ふわふわした感覚が身体に残っていてなんだか非常に歩きづらい。
 「シンルです。ハクマシンル」
 「シンルね。覚えたよ。俺はミズマユリ。一応ここで教授やってるけど、教授、って呼び方は肩苦しいからユリ先生でいいよ。ユリせんせー」
 学院長に案内を任された女性、ユリ先生は、私の一歩前を歩きながらハキハキとよく喋る。慕われているのだろうか、途中ですれ違う殆どの生徒に挨拶されていた。
 「シンルはもちろん寮に入るんだろ?」
 ユリ先生が振り向きながら言う。その拍子に大げさなくらい胸が揺れた。ユリ先生は私の村の誰よりも胸が大きい。二十代中ごろぐらいだろうか、短めに整えられた浅緑の髪も、ユリ先生の魅力を引き立てている。男子生徒が慕う理由はわかる気がする。
 「えーと、多分そうです」
 「なんだ、多分って」
 と、怪訝な顔で聞き返されてしまったので、私はサルトルの紹介でここに来た事と、アリサドの小さな村に住んでいたので魔法学院のシステムがまったくわからない事を説明した。
 「まぁそれなら寮に入るんだろうけど…。はぁー…、あのサルトルの紹介で、しかも学院長直々の迎えが来るなんて、これはまたとんでもない大物が入ったなぁ」
 ユリ先生は頭を抱えるような仕草をしながら言ったが、その声はむしろ楽しそうな響きを含んでいた。
 「いえ…全然そんなのじゃあ…。トールさんが学院長だなんて知らなくて…。というかサルトルさんもすごい人なんですね」
 私は大物と言われた事に内心喜びながら言うと、ユリ先生は、信じられない、という顔をした。
 「馬鹿、ハルトゼイネル、サルトル、マリスといえば、今の世の中じゃあ、『三大魔道士』って呼ばれてて、全世界の魔道士の目標になってるような存在なんだぞ。まぁマリスって奴は今どこにいるのかもわからないらしいけど、そのうち二人のお墨付きなんて、学院始まって以来だよ」
 私はぎくりとした。まさかサルトルがそんなに有名な魔道士だとは思わなかった。そして、その三大魔道士のうち、サルトルとマリスがつい最近争った事はまだ明るみには出ていないのだろうか。
 「まぁ、ウチの学院長の事は気にするな。そういういたずらっぽいところがある人なんだ」
 私の動揺を知ってか知らずか、ユリ先生は苦笑しながらそう付け足した。
 「そうだったんですか。…あの、ところで私は何科になるんですか?」
 私は、自分が知ってはいけない事を知っている気がして、それとなく話題を変えた。
 「いや、そりゃシンルがどのタイプの魔法を使うかだろ?」
 「えっ?魔法はこれから習うんじゃないんですか?」
 「は?」
 二人の間の空気が凍るのがわかった。しかしわかったところで私にはどうする事も出来ない。ユリ先生の唖然とした顔を眺めながらの重たい沈黙。
 「…魔法、使えないの?特待研究生なのに?」
 
 広大な学院内を案内され終わった頃には、もうすっかり日が暮れていた。ユリ先生は最後に私を食堂に案内すると食券を手渡して、学院長に事情を聞いてくるから食べ終わってもそのまま待っていてくれ、と言い残して駆け足で去っていった。食堂は長方形の巨大な部屋で、その形に添って四列に長細い食卓が並んでいる。百人は座れそうなほどの椅子が用意してあり、天井には煌々と光るシャンデリアが二組、吊り下げられている。既に椅子は半分ほど埋まっていて、背の高い者、低い者、専用の椅子と机を使っている巨大な者、机の上に座っている小さな者、等々、様々な種族の生徒達が賑やかに食事をしていた。
 私は一人になって急に心細くなりながらも、掲げられたメニューの中から辛うじて自分も食べた事のありそうな魚料理を注文して食べた。母の料理とは味付けが全然違ったが、意外にも美味しく感じた。
 学院長と飛行鯨に乗って派手に登場したのが噂になったのか、私が食事をしている間、周囲から私に視線が注がれるのを感じた。私の事を言っているのだろうか、小声で話す声も聞こえる。しかし、人見知りとも複雑な人間関係とも無縁な環境で育ったその時の私は、それを気にする事もなかった。ただ、誰とも会話をせず、一人で食事する事が始めてだったので、その寂しさには戸惑った。
 食事を終えた時、ちょうど食堂のドアが勢い良く開き、ユリ先生が入ってきた。そして入ってきた途端、「シンルどこだー?」と、広い食堂中に響き渡る大声を出した。
 私が立ち上がると、食堂中の注目が私に集まった。さすがにそれは少々恥ずかしかった。
 もちろん、ユリ先生はそんな事お構いなしで、私の方に向かっておいでおいでをするように手を振って、食堂から出て行った。私は急いで追いかけようとしたが、調理場の方から、「食器持ってきな!」と、これまた大声で言われてしまった。
 
 食器を片付け、ユリ先生について行った先は、実験棟にある一室だった。そちらでいう普通の教室ほどの広さの部屋に入ると、ユリ先生は全ての窓にかかった分厚い布のカーテンを閉め切った。とたんに室内は暗転する。
 「ユリ先生?」
 本当に目の前も見えないほど真っ暗だったので、私は不安になってユリ先生を呼んだ。
 「待ってな、今陣を発動するから」
 と、ユリ先生が答えてからつかの間、室内はぼうっと明るくなった。一瞬、光源がどこにあるのかわからなかったが、すぐに理解出来た。ユリ先生の身体と、それから私の身体からぼんやりとした青白い光が放たれている。ユリ先生の光は私の光よりも若干はっきりとしていて明るかった。
 「この部屋に敷かれた魔法陣。キルリアンの陣っていうんだ。大昔に、キルリアンって偉い魔道士が編み出した陣で、陣の中にいる生物の身体に流れる魔力を捕らえて、光らせるのさ」
 ユリ先生はそう言いながら、私の肩に軽く触れた。二人の身体を覆う青白い光が繋がる。
 「うん、まぁ学院長の言った通り、この年齢にしては驚くほど落ち着いた、強い魔力を帯びてる。さぁここからが本番だ。見てな」
 ユリ先生は私から手を離して一歩下がると、左手を胸の前に掲げて人差し指と親指を突き出し、もう一度「よく見て」と言った。私はユリ先生の左手に注目した。すると、さっきまで身体全体を覆っていたユリ先生の青白い光が、少しずつ左手に集まり、強い光を放ち始める。
 その光が一際強い輝きを放った次の瞬間、バチッ!という音と共に、青白い光とは別の種類の閃光が掲げられた左手の人差し指と親指の間に走り、一瞬部屋が昼間のように明るくなった。閃光の残像が消えると、ユリ先生の身体を取り巻く青白い光は、もう最初の状態に戻っていた。
 「今のが魔法だよ」
 「すごい…」
 私が感嘆とした声をあげると、ユリ先生は苦笑した。
 「いやいや、今のは炎術の基礎の基礎だよ。大した術じゃないんだ。実戦で問題になるのは火力じゃなくて、何が燃えやすいかを知る事だけどね。っと、今はそんな話じゃないか。さて…」
 ユリ先生は腕組みをして、続ける。
 「どうやらシンルはまだ何も知らないようだから、その基礎の基礎から教えていかなくちゃな。長くなるから、頑張って覚えろよ。
  魔法は、大まかに分けて三種類ある。陣系、詠唱系、付加系。これはそれぞれ発動方法によって区別されていて、このキルリアンの陣みたいな陣系は予めその場所に陣を組んで発動する。種類によって陣の作成にかかる手間は様々だ。大抵は陣の内部にいる者に効果があるな。それから、詠唱系。これは詠唱文を読み上げるか、印を結ぶ事で発動する。俺は印を結ぶ方が得意だが、シンルは詠唱派かもしれないな。最後に付加系。これは予め魔力を込めた札とかの魔法の品を使うんだ。俺はからっきしだが、いざという時に詠唱も陣も必要ないから、頼りになるぞ。……以上が魔法の分類だな。私達が使う魔法の殆どは、この三種類の発動方法と、それを複合した発動方法を持ってる。中には特殊な発動方法を持つものもいくつかあるが。
  そういう事で、魔法は人によって向き不向きがあるんだ。それから、これは最近理解されつつある事だが、その土地が持つ力によって、発動できる魔法と出来ない魔法がある」
 「地相の事?」
 「ん?最近の話なのに良く知ってるな。まぁそうだ。幸いこの魔法学院がある場所は炎、水、風の主要三属性の地相が強いし、光と闇も無いわけではないから、殆どの魔法が使えると思っていい。
  話の続きだ。向き不向きがあるから、普通だとまずはシンルに向いている魔法と向いていない魔法を知らなくちゃならないが、どうせ特待研究生はほとんどの講義に出席しないといけないし、向き不向きはひとまずおいといて基本的な魔法の発動方法から入ろう。さっき俺がやった点火術をやってみるぞ」
 「え、もうですか」
 意外に話が早く終わってしまったので、私は拍子抜けした。
 「これ以上くどくど口で言っても始まんないし、実践あるのみだろ。やるぞ」
 「あ、はい」
 どうやらユリ先生にとっては長い話だったようだ。
 「まずは、自分の頭のすぐ上に、頭と同じくらいの大きさの小さい雲が浮かんでいるのをイメージするんだ。いいか?……その雲から雨が降ってくる。その雨はどうなる?」
 私は眼を閉じて、ユリ先生に言われた通りにイメージした。
 「私を濡らして、それから床に落ちます」
 「よし、それで良い。しばらくはその雨の流れをイメージし続けて」
 ユリ先生はそう言って黙った。眼を閉じてイメージしていた私に知る事は出来ないが、この時、私の身体の青白い光が波打つようにして足元に少しずつ移動していた。ユリ先生は私の足元に充分な光が集まったのを確認して、言う。
 「いいぞ。じゃあ次は、足元に出来た水溜りが、また自分の身体を登って、今度は両手に集まるのをイメージして」
 私が言われた通りイメージすると、私の足元の光はまた私の身体を波打つようにめぐり、両手に集まった。
 「眼を開けていいぞ。……見てみろ、両手に光が集まってるだろ」
 私はここで初めて光が移動した事を知り、驚いた。驚いたと同時に、両手に集まった光は刺々しい形に変わって、エネルギーを放出したように輝きが少し弱くなった。
 「こらこら、精神を落ち着けて、集中する。それから見えないボールを両手で持つようにして」
 ユリ先生はたしなめるように言った。私は輝く両手を慎重に動かして、胸の前で向き合わせる。ユリ先生は私の両手を囲むように自分の両手を差し出した。私の両手の輝きがより強くなる。
 「最初だから、幇助してやる。…じゃあ、『払惑の隣人 朱の告別 刹那の露電 この手に示せ』こう唱えるんだ」
 私は緊張を押し殺し、出来るだけ落ち着いて唱えた。
 
 ――払惑の隣人 朱の告別
   刹那の露電 この手に示せ――
 
 バチッ!「きゃっ!」
 両手の間に鋭い熱と閃光が走り、私は思わず悲鳴をあげた。それを見て先生は嬉しそうに笑った。
 「さすが、一発で成功なんてな。今のが詠唱系炎術の初歩的な呪文、点火術だよ。まぁ俺くらいになればこれくらいの術は詠唱や印を使わずとも発動出来るようになるぞ。さて、今度は俺の幇助無しで一人でやってみな」
 「はいっ!」
 私は嬉しさで軽い興奮状態になっていた。ユリ先生に「魔法使えないの?」と言われた時の不安も消え失せ、これからの生活への期待で胸がいっぱいになる。
 私は有りっ丈の魔力を込めるイメージをしながら両手を胸の前で向き合わせた。両手の光はユリ先生の幇助を受けたさっきの光よりも強くなる。私はさらに嬉しくなり、より一層の魔力を込めて唱え始めた。払惑の隣人…
 「わっ!バカッ!」
 ユリ先生がそう叫んで身を乗り出し、私の腕を掴んだ時にはもう手遅れだった。過剰に魔力を込められた術式は暴走し、部屋内に爆音が響き渡った。
 幸い、ユリ先生が私の腕を掴んで閃光の軌道を逸らしてくれたおかげで、被害は廊下側の壁の一部を吹き飛ばしただけで済み、ユリ先生も、よくある事だ、と慰めてくれたが、私は到着早々、調子に乗って学院を破壊してしまった事を深く後悔した。ユリ先生は私を一通り慰めた後、魔法に重要なのは魔力の大きさではなく常に冷静な心だ、とたしなめた。(実際はもっと長々と怒られたが)
 
 そうしているうちにずいぶん遅い時間になってしまったので、ユリ先生は「講義内容に追いつくまではまた個人授業してやるから、今日は終わり」と言って私を寮に案内してくれた。私が入る部屋には既に先住人がいるらしく、ドアの横には「ウスラミ・カスカ」というネームプレートが入っていた。ユリ先生はその下に私の名前が書かれたネームプレートを入れると、
 「どうせカスカはいないだろうから、あがってくぞ」
 と言ってドアを開けた。確かに部屋の中には誰もいない。しかし、その部屋には不気味な藁で出来た人形や、オレンジ色の液体が詰まった瓶の中に浮かぶ得体の知れない生物、髑髏の形の透き通った置物などが所狭しと置かれ、さらに壁には謎の札のようなものが無数に貼られている。それらのもの全てが、この部屋に住むウスラミ・カスカの存在を強烈に主張していた。
 「カスカは付加系の術師なんだ。付加系が苦手な俺から見ても結構優秀な生徒なんだが…、まぁ趣味は見ての通りだ。厄介なところに入る事になったなって思ってるだろうけど、頑張れな。カスカは確かシンルと同い年だから、もしかしたら仲良くなれるかもしれんし。あ、シンルが持ってきた荷物は多分二段ベッドの上の段に置いてあるぞ」
 ユリ先生は床に置かれた人形達を足でどけて座る場所を確保しながら言った。私は、こんな会う前から既に不気味な人とは出来ればお知り合いになりたくない、と思いながら、窓側に置かれた二段ベッドを見ると、確かに私の荷物が上の段に置いてあった。下の段にはフリルのついた浅黄色の布団が敷いてあり、カラフルな猫のぬいぐるみが何体か置いてあった。その一角だけが妙に可愛らしい少女趣味で、おどろおどろしい部屋の雰囲気とは全く切り離されていた。
 私は荷物をベッドの端に寄せれば、上の段にもギリギリ眠るスペースがあるのを確認した。まさかこんな散らかし癖のある人と二人暮しになるとは思わなかったが、持って来る荷物を少なくしておいて助かった。
 「お、それからこれ。こっちの通貨だ。学院長から渡すように頼まれた」
 と、ユリ先生は私の足元に皮の袋を置いた。袋の中から、ザリ、という重たい音が鳴る。
 「良いんですか?」
 「良いんですかも何も、シンルはお金なんて持ってないだろ。本当はもっとたくさん預かったんだが、月に一度ずつ、同じだけ渡すから無駄遣いするなよ。とりあえずは、その田舎臭い服は何とかした方が良いかな。買い物なんて初めてだろうから、今度、近くの街に連れてってやるよ」
 「ありがとうございます」
 私はお礼を言いながら皮の袋を受け取って、二段ベッドの上の段に置いた。そういえば、お金にはまったくなじみがなかったので、特待研究生として入学できるだけで安心していたが、確かに少しは持っていないと色々不便だ。
 「さて、実はまだまだ聞きたい事があるだろう?こんな小さいコが一人で村から出てきたんだ。不安な気持ちでいっぱいだろ?俺も寮住まいだし、もうこの際だから今日はとことん付き合ってやるよ。とりあえず学院の事は何でも答えてやるから、言ってみな」
 ユリ先生は床にあぐらをかいて、自分の膝をバンバンと叩きながら言った。私はその姿を見ながら、活発で面倒見の良いユリ先生を心の底から頼もしく感じた。ユリ先生はその日の夜遅くまで、ハルトゼイネル魔法学院の事を説明してくれた。
 
 ユリ先生によると、ハルトゼイネル魔法学院は、そちらの言葉で説明すると大学院に近く、魔法の学び舎というよりは総合施設に近かった。設備も研究内容も世界の最先端を独走している為、魔法を学ぶというより、研究する目的で入学する者も多い。また、教育課程を修了した生徒も研究生となって学院に在籍を残す事が出来る。それから、魔法の高い技術力を持つが故に、周辺国に軍事的に重要な拠点として見られているため、有事に備えて赤国と協力関係を結んでいる。
 私の特待研究生という立場は、普通は教育課程を優秀な成績で修了した生徒に対して、研究生として学院に残るなら費用は免除しますよ、というもので、特別な才能が認められない限り、教育課程を終える前から特待研究生となる事はない。私の場合は、サルトルの推薦、という特例だろうか。とにかく、最初から特待研究生として入学する者は、全ての費用が免除される代わりに、ほとんど全ての講義に参加しなければならないようだった。
 他には、特待研究生である限り、実力が備われば積極的に任務に参加してもらう事になる、とも言われたが、その任務については詳しく教えてもらえなかった。
 
 
 私が魔法学院に入学してから二ヶ月が経った。ユリ先生に言われた通り、私は半強制的にほとんどの講義に参加せねばならず、めまぐるしい毎日を送り、ホームシックにかかる暇も無かった。
 むしろ、そういった寂しさよりも今までまったく知らなかった事を次々と学べる楽しさの方が勝っていたかもしれない。私は毎日、朝から晩まで講義を受け、講義が終わると食堂で食事をした後、図書棟に足を運んで本を読み漁った。たまの休日には、ユリ先生と近くの街で買い物をしたりもした。街にも目新しいものがたくさんあり、私は知らない物に出会う度に、ユリ先生に説明してもらいながら街を歩いた。
 同居人である、ウスラミカスカとはほとんど会う機会が無かった。カスカはいつもどこかに外泊していたし、たいてい私も部屋に帰るのが遅かったので、たまにカスカが部屋にいたとしても、もう眠っている事が多かった。
 初めてカスカが起きている時に部屋に帰った時、カスカは謎の藁人形と向き合いながら低い声でブツブツと呪文を唱えていた。私が恐る恐る「始めまして」と言うと、「シンルちゃん?よろしく」と答えてくれたものの、私が「よろしくね」と返したきり、それ以降の会話は無く、カスカはまた小声で呪文を唱える作業に戻ってしまったので、私は仕方なく狭い二段ベッドの上の段に登って、図書棟で借りてきた本を開いた。部屋にもう少しだけでも自分のスペースが欲しいと言い出そうか迷ったが、カスカの真剣な(というより、不気味な)様子を見るとなんとなく言い出せなかった。
 魔法に関しては、なかなか順調な滑り出しだと自分でも思えた。冬期からの途中入学なので、最初のうちは実技などについていけずに苦労したが、わからない事や出来ない事がある度に、図書棟から本を借りて調べたり、ユリ先生に個人授業をしてもらったりしたので、すぐに追いついた。二ヶ月経った今では、基本的な魔法ならある程度使いこなせるし、学年での成績も中の上くらいになっていた。
 友達を作りもせずに(狭い村で育った私に、友達を作る、という感覚は無かったが)そんな生活を続けていた為だろうか、ユリ先生は何かと私の世話を焼いてくれた。そしていつも、友達くらい作れよ、と言ったが、あのカスカに対しては望めるべくもなく、私から誰かに話しかけるにもどうしたら良いかわからなかったので、依然として友達が出来る気配は無かった。
 時々、学院内で私に話しかけてくる人も居たが、それは大体、中年の研究生といった風貌の人で、話の内容はいつも、特異な経歴で入学した私を実験材料として見ているような感じだった。もちろん、友達になろうという話など微塵も無い。そもそも、学院に通う人々の殆どがニンゲンでいう20歳から先の年齢で、同世代の人は少なかった。
 
 私も毎日一人でいるのは少し寂しかったので、出来れば食堂で会ったら一緒に話したり出来るくらいの友達は欲しいと思っていたが、どうにも、都合の良さそうな同世代の人を見つける事は出来なかった。
 そんな頃、私に対して、実験材料的な話ではなく話しかけてきた人が一人だけいる。しかも、私の少し上くらいの若い男の子だった。
 「お前、特待研究生で入学したんだってな」
 食堂でもやし料理に舌鼓を打っていた時、その男の子は隣に座って話しかけてきた。振り向くと、短髪で痩身の、いかにも爽やかな雰囲気の男の子が私と同じもやし料理を机において、私の顔を覗き込んでいた。私は妙に緊張してしまいながら、そういえば講義で頻繁に見る顔のような…、と考えた。
 「あ、はい。講義でけっこう良く会いますよね?」
 私が聞くと、男の子はフン、と鼻を鳴らした。
 「当たり前だろ、俺も今年から特待研究生として入学したんだ。しかもお前が入るまで、歴代の特待研究生の中で最年少だったんだよ」
 その言葉は挑戦的な響きを含んでいた。私はその雰囲気に圧されてしまう。
 「はぁ…、ごめんなさい」
 「いやいや、謝るのはおかしくね?要はアレだよ。俺もすげぇ奴が入ったなと思ってたんだけど、しばらく様子を見てみたら、全然ダメ、シロウトじゃんか。お前、何で特待研究生なの?」
 どうやらこの男の子は私にライバル心を抱いているらしい、という事がようやくわかって、私は気が重くなった。残念ながら私には特別な才能や隠し持った能力があるわけでもない。
 「私、偶然ある魔道士さんに魔法の素質がある事を認めてもらったんだけど、私はアリサドの小さい村に住んでたからお金なんて持ってなくて、それで仕方なく」
 私はそう説明した。この頃は誰に対して説明する時も、ユリ先生のように驚かれたり、過度な期待を持たれるのが嫌なので、サルトルの名前は出さないようにしていた。
 「ふーん、そうか」
 男の子は、自分の方が『真の最年少特待研究生』だと安心したのだろうか、もう一度、フン、と鼻を鳴らして、右手を私の前に差し出した。
 「そういう事ならいいや。俺はラニア。特待研究生同士、多分これから会う事も多いと思うからよろしく。まあ特待研究生らしく頑張れよ」
 さすがにこの態度には私も少しカチンときて、ちょっとでもかっこいいと思ってしまった過去の自分を消し去りたいと思った。
 「シンルです。よろしく」
 私は差し出された右手を渾身の力で握り返してやったが、その力はラニアの右手に簡単に吸収されてしまったらしく、ラニアは平気な顔でぶんぶんと腕を振った。私は腕を振り回されながら、わけもわからず自分の顔が赤くなるのを感じた。

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