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偽造ほんわかABCD

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 特待研究生の受難 Ⅱ/ウスラミ姉妹

 
 
 夏季休院が終わってすぐ、陣術の講義中に女の人に話しかけられた。二十歳前後のニンゲン族で、おっとりした感じの人だった。
 「あなた、シンルちゃんでしょ?」
 「えぇ、はい」
 今まで、一方的に私の名前を知っていて話しかけて来る人は、例によって私の事を珍しい被検体として見ているような人ばかりだったので、いつもの私ならこの時点でかなり警戒しているのだが、雰囲気のせいか、その女の人にはあまりそういう気持ちが湧かなかった。
 その女の人はにっこりと笑い、右手を差し出しながら続ける。
 「私、メディっていうの。よろしくね。……一応ここで四年生してるんだけど、最近は研究棟に篭りっ放しかな。シンルちゃんは、まだどこの研究チームにも所属してないんだよね?」
 私は差し出された右手を握り返しながら、『はぁ、まぁ』と気のない返事をした。どうやら、よくある勧誘のようだ。
 ここ、ハルトゼイネル魔法学院の主たる目的は、第一に学費を払っている生徒達に魔法を教える事、そして第二に、魔法の研究を進める事である。魔法の研究は、学院の者であれば誰でも参加出来る。研究の主体となっているのは教育課程修了後に研究生として残った者達だが、中には講師と二足の草鞋を履いている者もいるし、最初から研究目的で入学した者もいる。
 そして、同じ研究目標を掲げる者達が集まって研究チームを作るのだ。学院内には大小合わせておよそ百近くの研究チームがあり、学院側も良い研究成果を挙げるチームや、規模の大きいチームには研究室を優遇したりしている。
 最先端の研究に携われるだけでも良い経験になるので、教育課程途中の生徒達の中にも、研究生の手腕を学ぶ目的で研究チームに所属している者はたくさんいる。
 しかし、その全てがそれぞれの研究課題達成に向けて日夜研究に明け暮れている、というわけでもなく、中にはサークル感覚のチームや、完全にお遊び目的のチームもたくさんある。
 そういった研究チームは訳もなくたくさんのメンバーを欲しがるもので、まだ学院のシステムに疎い新入生すら無差別に勧誘の的にされる。
 そして毎年、夢溢れる新入生達の一部は、先輩研究生の生真面目な勧誘文句につられてお遊びチームの一員となってしまう。朱に交わればなんとやら、数年後のその生徒は新入生を同じ言葉で勧誘する事だろう。これはもはや学院の伝統となっている光景だった。
 私の気持ちを知ってか知らずか、メディは話を続ける。見た目の印象とは裏腹に、意外と早口ではきはきした口調だった。
 「私、まだ卒業前だけど一応チーフやってて、うちのチームは研究室もひとつ持ってるの。基本的な研究内容は陣術の研究なんだけど、確かシンルちゃんは陣術が苦手だったんじゃないかな?だから、研究に関わってみるだけでも良い経験になったりしないかな?」
 「いえ、私はまだそういうのには…」
 私は、研究チームに所属していない事はともかく、陣術の腕前があまり芳しくない事まで何故か知っているメディに若干の不気味さを覚えながらも、やんわりと勧誘を断ろうとした。卒業前の生徒がチーフをしている研究チームなんて、その時点で怪しすぎる。
 「そっか…」
 そこでメディは少し俯いて言葉を切った。そこまで熱心に勧誘するつもりはないのだろうか。人が良さそうに見えるだけに、私はなんだか悪い事をしてしまった気がして落ち着かない。
 と、メディはもう一度私に向き直り、明るい口調で言った。
 「ところでシンルちゃん、勉強場所を見つけるのに苦労してない?」
 唐突に話の内容が変わったので、私は面食らう。
 確かに、夏季休院が終わってカスカが帰って来たおかげで一旦は片付いていた寮の部屋も以前の通りになり、私の生活圏は二段ベッドの上の段のみに追いやられていた。自分の荷物もそこにまとめてある為、陣術の式図を一枚広げる場所すら無い。学習環境としては最悪だ。
 それにしても、メディはなぜこうも私の事を知っているのだろう。私は不気味さを通り越して少し怖いと思い始めた。
 「確かに、安心して勉強出来る場所が欲しいなってちょっと思ってます。でも、どうしてそう思ったんですか?」
 私は訝しげにメディを見つめてそう言うと、メディは口元に指先を添えて、ちょっと考えるような仕草をしてから答えた。
 「寮、相部屋なんでしょ?それに遅くまで図書棟で呪文書を広げてるのもよく見かけるし、それで。…研究チームに入れば、研究室を自由に使っていいよ?……あと、これは遊びの勧誘じゃないからね。私、本気でシンルちゃんの事、チームに欲しいと思ってるの」
 メディは語尾を強めて言い、にっこりと笑った。大人びた感じと子供じみた感じを同時に受ける、不思議な笑顔だった。
 その勧誘の言葉に私は一度反射的に断りそうになってから、ふと考えてみる。研究とは何の関係のない取り引きだが、もしかすると悪くない条件なのかもしれない。研究チームに入っていれば実験用の触媒等を学院から借りる事も出来る。それを私用に使う事をメディが許してくれるなら、の話だが。
 それに何より、私の事をよく観察しているらしいメディ自身にも興味が沸いた。ここまで調べられているのだから、メディの言う通り、遊びの勧誘では無いだろう。
 「……今度、一度研究室を見学させてもらっても良いですか?」
 私がそう答えると、メディは、わぁ、と小さく歓声をあげて両手を合わせ、またにっこりと笑った。
 「じゃあ、私はいつも最後の講義が終わる時間くらいには研究室にいるから、今度来てくれるかな。研究棟の4のйが私の研究室だからね。4のйだよ?覚えた?」
 メディはもう一度右手を差し出して、私の手を強く握った。メディの美しい赤毛がふわっと揺れて、なんだか良い香りがした。
 
 「ねぇ、メディさんって知ってますか?四年生で、赤いロングヘアのおっとりしたお嬢様って感じの人」
 私は二段ベッドの上の段に座って、足をぶらぶらさせながらユリ先生に聞いた。ユリ先生はカスカの謎のがらくた達を乱暴にどけて床に座っている。いつも通り、カスカはどこかに出かけていて部屋には居ない。
 「おー、知ってるぞ。男子生徒にかなり人気がある奴だな。ま、俺には負けるけど」
 ユリ先生はよくわからない自慢を混ぜて答える。そう言われてみればメディはいかにも華のある感じでかなりモテそうだ。ユリ先生とはまったく正反対の支持層だろうけれど。
 「今日、その人の研究チームに勧誘されたんです。どんなチームか、わかります?」
 ユリ先生は自分の自慢話を私に軽く聞き流された事で逆に恥ずかしくなったのか、ばつが悪そうににやけた表情を引っ込めて、答える。
 「お前、また面白いのに目をつけられたな。メディのチームは新たな学院の怪談のひとつって言われるくらいおかしなチームだぞ」
 また怪談か…と、私は少しうんざりした気持ちになった。やはり、まともな研究チームの勧誘では無かったようだ。
 「じゃあ、やっぱり研究チームに入るのはやめておきます。研究室を勉強場所にして良いって言われたんですけど、やっぱりここでなんとか頑張るしかないみたいですね」
 私はそう言ってベッドをとんとんと叩き、ため息を吐いた。
 「これくらいどけちゃえば良いのになぁ」
 ユリ先生は床に散らばるガラクタにでこピンしながらめんどくさそうに言う。
 部屋中に散らばるカスカのガラクタを勝手に移動させたりした事でカスカが怒った事は今まで一度も無いけれど、私にとっての問題は、怪しさの漂うカスカのガラクタを触る気にならない事だ。それから、この部屋に入って以来、ずっとこの狭いベッドの上だけで生活してきていたせいか、部屋内のそれ以外の場所はなんだか自分の場所じゃない気がして落ち着かない。
 私はまた、深いため息を吐いた。
 「っと、ところでさっきの話に戻るけど」
 と、ユリ先生は引き続き床のガラクタ達にでこピンを喰らわせながら言う。落ち着きのない人だ。
 「『勉強場所にしていい』って、メディがそう言ったならそれって多分、シンルにとってもメディにとっても良い話だと思うぞ。勉強どころか、小規模の実験くらいなら何の気兼ねもなく出来る良い場所になりそうだ。なんたってメディのチームは、メディ一人しか居ないからな」
 「メディさん一人?それってどういう事ですか?」
 私が思わずベッドから身を乗り出して聞くと、ユリ先生はにやりと笑って、手に持ったガラクタをビシっと私の眼前に掲げた。長い爪と口元に赤色のペイントが施された、趣味の悪い熊のぬいぐるみだ。
 「そ、こ、で、さっきの話。学院の怪談だよ、シンル」
 ユリ先生は怪談の話を話したくて仕方がないようだ。自分で怪談をひとつ作り出しただけあって、こういう話が好きなのだろうか?
 
 「メディが研究チームを立ち上げたのは、去年の秋、シンルがやってくる少し前頃だったんだ。メディ自身は真面目な生徒で、研究チームを立ち上げたのも、得意の陣術をもっと伸ばしたいからだったんだろうな。だからメディは小規模でも良いから真面目なチームにするつもりだったんだろうが、残念ながらそうはいかなかった。チームにメディのファンの男どもがチームに押しかけてきて、冬の終わり頃には、30人規模のチームに膨れ上がっていたんだ。もちろん、その頃はまだチーム専用の研究室も無かったし、まともに研究が出来る状態じゃない」
 「うわぁ、最悪。人気があるのも大変なんですね」
 私は思わずメディに同情した。私はそこまでモテた事がないから、いまいち感覚は掴めないが。
 「まあ、ここまではよくある話っちゃあよくある話なんだ。面白いのはここから」
 ユリ先生はそこまで言うと、立ち上がって部屋を歩き回り、カスカの品々をひょいひょいといくつか拾って床に並べ始めた。
 指先サイズの小さい人形が数体と、包帯をした女の子の人形が一体、床に並ぶ。
 「女の子の人形がメディさんで、小さい人形がファンの人達ですね」
 私はユリ先生の意を察して言った。ユリ先生は満足そうに頷いて、その人形達の隣に水晶の髑髏をどんと置いた。
 「で、急に規模が大きくなっちゃったもんだから、今年度の春に学院側がメディの研究チームに研究室をひとつあてがったんだ。はっきり言って、これはかなりの特例。研究チームはごまんとあるし、研究室の数には限りがあるわけだから、研究室を持たないチームもいっぱいあるんだ。まぁ、30人って規模で研究室がないのもおかしいけど、発足して数ヶ月で研究室持ちになるチームなんて滅多にない」
 ユリ先生はそう言いながら、メディ人形を持って水晶の髑髏の上に乗せ、ふりふりと揺さぶった。
 「メディだけは、研究室を貰えた事を素直に喜んで、必死に研究を進めようとしてたみたいだけど、研究室には毎日メディのファン達が集まって、もう完全にお遊びチーム状態になっちゃったわけだ。
メディはすごく困ったんだろうけど、押しが弱い奴でな。研究する気の無い男たちにも、チームから出て行けとは言えなかった。そんなある日…」
 ユリ先生はそこで言葉を切り、メディ人形を水晶の髑髏の上に置いて、先ほどの悪趣味な熊のぬいぐるみを左手に持った。そして右手で熊のぬいぐるみの腕を掴んで、ファン人形に振り下ろす。熊のぬいぐるみの爪がガチリと音を立てて、ファン人形が一体倒れた。
 私は思わず、あ、と小さく呻いた。
 「ファンの一人が体調不良で寝込んで、そのまま研究チームを抜けてしまった。そしてそれを皮切りに、一人、また一人と……」
 ユリ先生は低い声でそう言いながら、熊のぬいぐるみの腕を振り回してファン人形を倒していく。本人はかなり楽しそうな様子だ。
 「それで今、メディさん一人なんですね。でもどうしてそんな事に?」
 私が冷静な口調で聞くと、ユリ先生は興ざめした、とでも言いたげな眼で私をじろりと見る。
 「原因は不明さ!だから怪談なんだ。体調を崩して辞めていったファン達は何も話そうとしない。そのうち、メディが何かの魔法で邪魔なファン達を暗に消していったのだとか、あの研究室は呪われてるとかって噂も出てきて、おかげでメディのチームは新しいメンバーもまったく入らなくなっちゃったのさ。だけど、俺はメディは何もしてないと見てるね。メディは優しい奴なんだ」
 私は『面と向かって辞めろと言えないからこそ暗に葬ったのでは?』と一瞬思ったが、メディの笑顔を思い出すと、確かにそんな事は出来ない人のような気もした。
 「でも、何で今更私を勧誘してるんでしょう?一人になったなら、自分のしたい研究に好きに打ち込めるような気もするんですが」
 「そこで、問題はこれだよ」
 ユリ先生はそう言って水晶の髑髏をこんこんと叩いた。
 「魔法学院は、たった一人の生徒しか居ない研究チームに研究室を割り当てられるほど部屋は余ってないのさ。このままだと残っても今期いっぱいだろうね。だけど、そこで特待研究生のシンルが居ればだな」
 ユリ先生は水晶の髑髏に腰掛けているメディ人形の隣に、先ほどの熊のぬいぐるみを置く。それは私だろうか。その配役は余りにも気に入らない。というか、それではこの怪談の犯人は私という事になってしまうではないか。
 「シンルが居れば、多分研究室は存続される。メディがシンルを勧誘した理由はたぶんそこだろう。特待研究生は立場上強いし、シンルは成績も良いからな。あとは期末毎に良い研究内容があがれば言う事無しだが、それはメディが頑張ってくれるだろう」
 ユリ先生はそこまで言って、メディ人形と熊のぬいぐるみを両手で持ってぴょんぴょんと跳ねさせた。
 「シンルにとっては実験も出来る良い勉強場所。メディにとっては最高の研究環境。邪魔なメンバーも居ない。お互いギブ&テイクが成り立ってると思わないか?」
 確かに、それなら私にとって垂涎ものの環境だが、ユリ先生は重大な事をひとつ見落としている。
 「ユリ先生、それで私がその謎の熊ちゃんにやられちゃったらどうするんですか」
 私がそう言うと、ユリ先生は一瞬ギクりとして、それから、にへら、と表情を崩して私を見る。
 「だ、大丈夫大丈夫。死んだ奴はまだ一人も居ないし、悪くて一週間くらい寝込むだけだよ。それに、怪談の正体、知りたくない?」
 やはり、この人は怪談の正体が知りたい一心で、私を実験台として扱うつもりだったらしい。
 「………。ユリ先生、その考え方はわりとひどいです」
 「いやいや、別に人柱とかそんなんじゃないって!それに女の子だったら大丈夫かもしんないじゃん?ずいぶん前の話だし!それにほら!研究チーム名義で研究棟の備品を使ったりも出来るよ!」
 人柱とは…。実験台より表現が悪い。
 「でも、メディさんは悪い人じゃないと思うし、その環境は確かに魅力的だと思います。一度見学に行ってみて、怪しいところが無かったらメンバーになってみても良いかも」
 怪談の事も、気にならないわけではないが、私は先の小人事件を解決出来た事もあって、自ら飛び込んでもどうにかなるような気がしていた。
 「だろ!だろ?何かあったら報告しろよ?いやー、楽しみだなー」
 ユリ先生は眼を輝かせて言うが、私としては何事も起きない方が幸せだ。
 
 「そっか、聞いちゃったんだね」
 翌日、私はさっそくメディの研究室に足を運んだ。研究室は十二畳程の広さだったが、大きな物はワークデスクが二脚と本棚が二架しか無く、きっちりと整理されていてかなり広く見えた。しかし、一時期はここに30人が通っていた事を考えると、ぞっとしない。
 メディは既にそこに居て、ワークデスクに座って本を読んでいた。私の姿を認めると、笑顔で出迎えてくれた。
 それから、メディは自分一人しか居ない理由の説明を始めようとしたが、私はそれを制して事の経緯はユリ先生に全て聞いた事を話した。
 「ごめんね。前の人たちが辞めていった事は私も心配なんだけど、多分シンルちゃんは大丈夫だと思ってたの。女の子だし」
 メディはそう言いながら、使っていない方の机から椅子を引っ張り出して自分の机の隣につけて私に手招きした。私が座ると、メディもすぐ隣に座った。
 「あ、紅茶飲む?」
 メディはそう言いながら机の上に置かれた水筒の口を開いて、水筒の蓋をコップにして注いだ。やや赤みがかった液体はまだ十分に暖かいようで、湯気をあげながら良い香りを広げた。嗅いだ事がある香りだと思ったら、講義の時にメディから香った香りと同じ物だ。
 私はただ呆然とその様子を眺めていた。まず、紅茶を飲むとは一言も言っていないし、そもそも私はここにわざわざ紅茶を飲みに来た訳ではない。
 メディはコップを私に差し出した所で、私の困惑した表情に気づいたのか、あ、と小声で叫んで眉をひそめ、困ったような顔になった。
 「ごめんね。先に注いじゃって。シンルちゃんはミルクティー、ダメだったかな?まあ、ダメなら私が飲むからいっか」
 メディはそう言って私の顔を覗き込んで小首を傾げた。
 「はぁ、いえ、頂きます」
 別に何の強制もされていないのだが、私は何故か少し怖気づいたような心持ちになって答える。
 「良かった。はい、どうぞ召し上がれ。ちょっと渋みが強いかもしれないけど、口に合うかな?」
 「……」
 何の根拠も無い直感なのだが、メディは私にとって永遠に勝てないタイプの人かもしれない。メディの周りだけ独特の時間が流れているというか、なんというか。
 そんな事を思いながら淹れられた紅茶を一口飲む。メディの言う通り渋みも感じたが、深いコクと甘みがあって、私の知っているミルクティーの味とは全然違い、予想以上に美味しかった。
 茶の葉に何を使っているのか頭の隅で少し気になったが、それを聞くと数時間ほど話されそうな悪寒があったので聞くのは今度にしようと思った。
 「……えっと」
 私が本題に入ろうとして、メディの方に向き直るとメディはキラキラした瞳で私の様子を見ている。どうやら本題の前に言わなければならない事があるようだ。
 「…美味しいです。すごく」
 それを聞いた途端、メディは両手の指を胸の前で絡めて喜ぶ。
 「わぁ、良かった!毎日水筒に入れてきてるから、欲しい時はいつでも言ってね?」
 私は『はい』と言いそうになる気持ちを危うく抑えた。村から出てきて一年、色々な人に出会ったつもりでいたが、ここまでマイペースな人は他にまだ会っていないかもしれない。
 いや、ほとんど会話をしていないので判断しづらいが、同居人のカスカもメディと同じくらいマイペースだろうか。
 「あの、まだチームに入ると決めた訳ではないです。前の人たちが辞めていった原因も気になるし、そもそもメディさんが私を勧誘した理由って、研究の為じゃなくて研究室存続の為ですよね?」
 とにかく、私は何とか自分のペースを取り戻そうと、多少強引にでも話を本筋に戻す事にした。このままでは何もかもうやむやのうちにチームメンバーにされかねない。
 メディはそれを聞くと表情を曇らせて、俯きかげんで黙ってしまった。私はなんだかとんでもなく悪い事をしてしまった気がして、硬直してしまった。
 「あ、いや、研究室存続の為、っていうのは、別に嫌だとは思ってないんです。私もここが使えるのはすごく助かりますし、メディさんの研究も、よかったら手伝いますし。私が言いたいのは…」
 私がここまで言ったところで、メディはぱっと顔をあげた。打って変わって、明るい表情だ。
 「良かった!怒られたらどうしようって思ってたの!研究を手伝ってくれるのも大歓迎だよ。こんな可愛い助手さん、欲しかったんだー。それに…」
 「ちょっと待ってくださいっ」
 私はたまらずメディを制した。このままでは話がまったく進まない。
 「問題はその、前の人たちが辞めていった理由なんです。私もこういう場所は欲しかったですけど、さすがにおばけの出る研究室は嫌です」
 メディは何故かぽかんとした表情で私を見て、答えた。
 「おばけなんかいないよ。だからそれは大丈夫だと思うよ?だってシンルちゃん女の子だもん」
 私はメディのあまりにさも当然、というような口ぶりが妙に引っかかった。
 「メディさんもしかして、怪談の真相に心当たりあるんですか?」
 私が訝しげに聞くと、メディはゆっくりと頷いて答える。
 「心当たりというか、ね。ごめんね、元々この話を怪談話にしたのは私なの。……そうだ。丁度新しい陣術も試したいし、真相を探る実験なんてしてみようか?」
 私はつい最近どこかであったような展開に、頭がくらくらとしてきた。
 
 
 「で、何だって俺はこんなトコに来てるんだ?」
 「えーっと、メディさんが、男の人が必要って言ったから?」
 ラニアと私は、キッチンで鼻歌を歌っているメディに聞こえないように小声で話し合う。
 「で、何でその怪談話の首謀者って噂されてる奴の部屋に行かなきゃなんないんだよ…。怪しすぎるだろ。お前この前も怪談を解決したとか自慢してたし、もしかして魔道士やめて探偵にでもなるつもりなのか?」
 ラニアはそう言って私をからかった。私とユリ先生が小人事件を解決した事を知った時は、かなり悔しそうにしていた癖に。
 「自慢じゃないし、探偵になろうとしてる訳ないじゃん、何故か巻き込まれちゃうの!それに、こういう事頼めるのラニアしか居ないってさっき言ったじゃん!」
 「……」
 ラニアはいらついているのか、片手で銅剣をくるくると回し始めた。普段は学院内で銅剣を持ち歩かない癖に、私がこの話をすると何故かわざわざ持ち出してきたのだ。
 「もしかしてラニア、怖いの?」
 ラニアといるといつも一言増えてしまう。そしていつも言った後で後悔するのだ。
 「ばっ!!怖い訳ないだろ!こっちは友達が一人も居ないアワレな小娘の為にがんばってやってんだぞ!?」
 「ラニアだって誰かと楽しそうに話してる所、見た事ないよ!」
 あの学院長の課題以来、私達はお互いの事を少しだけ認め合ったけれど、口喧嘩は相変わらず頻繁にやらかしていた。
 「二人とも、飲み物は私が適当に決めてもいいかな?…あ、そうだ!今日は夕飯も食べていく?」
 私たちの口喧嘩を中断させるように、キッチンからメディの明るい声が響き、ラニアは深いため息を吐いた。
 「まぁ、俺だってあのメディさんって人がやったとは思ってないけど、何で真相を知ってるのに今更実験とやらが必要なんだ?直接話を聞けばそれですむじゃないか」
 「えっと、二度と同じ事が起こらないようにする為に、新しい陣術を使って犯人を懲らしめたいんだって」
 「はぁ…、それで男が必要って…、俺が囮役になるって事じゃないのかよ…」
 やはり、幽霊の類が怖いのか、ラニアにいつものような元気が無い。
 「んー、まだ詳しい話は聞いてないから、わかんない」
 「わかんないってお前なぁ…、わかんないのに連れてくるなよ…。俺を何だと思ってるんだ…」
 と、小声で話していると、いつの間にかメディが両手にコップを持って後ろに立っていた。
 「二人とも、夕飯食べていくの?食べていかないの?」
 ラニアと私の話を聞いていたのかいないのか、メディは相変わらずマイペースだ。
 「はぁ、その前に説明してほしいんですが…」
 ラニアが言うと、メディは両手を軽く叩いてにっこりと笑った。
 「まぁいっか、もういつもより多めに作り始めちゃったから、食べていってね?実験の事は夕飯が出来るまでにぱぱっと説明しちゃうから」
 「じゃあ、夕飯はいただいていきます。で、実験って俺は何をすればいいんですか?」
 根が素直なのか、年上の女性に弱いのか、ラニアはさっきまで私に不平を垂れ流していた癖に、あっさり夕飯を一緒に食べる事を決めてしまった。場の空気的に、自動的に私も夕飯を食べていく事になってしまったのだろうか。
 「よかった!じゃあちょっと待ってね」
 メディはそう言って部屋の隅の魔道具を入れているらしき棚をごそごそと漁って、そこからマーカーらしきものを取り出した。
 「実験って言っても、簡単なの。この特製マーカーでラニア君の身体にある陣を布いて、待つだけ。多分二日と待たずに結果が出ると思うよ」
 「…その陣が呪いの正体ってわけじゃないですよね…?」
 私は思わずそう言ったが、メディは笑顔で首を横に振る。メディの赤い髪が柔らかく揺れた。
 「違う違う、この陣は私が最近開発した新しい陣だもん。じゃ、ラニア君、胸出して?」
 「えっ!?胸に描くんですか!?」
 ラニアは突然トーンの高い声をあげる。もしかして、メディに胸を見せるのが恥ずかしいのだろうか。意外とシャイだ。
 「別に胸じゃなくても良いけど、身体に直接描かなきゃいけないし、ある程度広さが必要だからね。背中でも良いけど?」
 「……服を脱がないでいいなら、背中で良いです」
 メディが優しい声色でそう言うと、ラニアは俯き加減になってぼそぼそと返した。
 
 メディがラニアの背中に陣を布いている間中、ラニアは右手を背中に回して服の背中側をずり上げ、左手で服の前の裾を引っ張ってお腹を隠すという、ずいぶんと格好の悪いポーズをしていた。男の癖に、そんなに胸を見られるのが嫌なのだろうか。
 「メディさん、本当に陣を描くだけで良いんですか?ラニアを研究室に入れたりしないでも良いの?」
 私がそう言うと、ラニアはきっと私を睨んだ。が、ポーズのせいかまったく威圧感は無い。メディは手を止めずに答える。
 「いいのいいの、この陣の効力はすぐ発揮出来ると思うから。…あ、それから、」
 メディはそこで手を止めて、ラニアの肩越しに顔をひょっこりと出して、私の方を見た。
 「今日、うちの妹も夕飯食べに来ると思うけど、妹にも実験の事は内緒だよ?」
 「妹さんも魔法学院の生徒なんですか。仲良いんですね」
 私がそう言うと、メディは苦笑いを浮かべた。
 「仲良いというより、ちょっとべったり過ぎて困ってるの。お姉ちゃんっ子っていうのかなぁ。寮に自分の部屋もあるのに、ほとんど毎日私の部屋に来るのよ」
 メディを困らせるとは、妹はメディ以上にマイペースなのだろうか。
 「はい、メディ特製、マル秘の陣完成っ!もういいよ、ラニア君」
 陣は二十分ほどで完成した。料理が出来かけているのか、キッチンからも良い香りが漂ってきている。
 「ちょうどご飯も出来る頃だし、そろそろあの子がきそうね」
 と、メディが言い終わらないうちに、玄関の方から物音が聞こえた。どうやらくだんの妹が呼び鈴も鳴らさずに入ってきたようだ。
 メディはその音を確認して、私たちに、ちょっと待っててね、と言い、玄関の方に小走りで走っていく。
 「これだけで良いなんて、何か拍子抜けしちゃったね」
 私はラニアに声をかけてみた。どうもメディによって背中に陣を描かれ始めたあたりから、ラニアはおとなしくなってしまっているような気がする。
 「……うん、」
 ラニアは上の空といった感じで、それだけ答えてまたボーっとしてしまった。
 「……もしかして、ラニアってああいう人がタイプ?」
 私はなんだか悔しくなってきて、からかうような口調でそう言ったが、ラニアはそんな私を醒めた目で一瞥して答える。
 「…別にそういうわけじゃないけど、まあ、お前の百倍くらいはタイプかな」
 「それどういう意味よっ」
 別に私が怒る義理も無いような気もするが、私は何故か声を荒げてしまった。と、そこでメディとメディの妹が帰ってきた。私がそちらに振り向くと同時に、聞き覚えのある声が言った。
 「あー、ホントだ。シンルちゃんだ」
 メディの横に立っていたのはカスカだった。私は意表をつかれてしまって言葉が出ない。
 「シンルちゃん、びっくりした?」
 メディがふふふ、と意地悪く笑って言う。まるまる五秒ほど間を置いて、やっと事態を理解出来た。なるほど。
 「びっくりしました。カスカちゃん、こんばんは。……もしかしてメディさんが私の事に妙に詳しかったのって、」
 「そうそう、時々カスカからあなたの話を聞いたりしてたの。あなた達同じ寮部屋なのに全然お話しないんでしょ?もっと仲良くすれば良いのに」
 「だってシンルちゃん私が帰ってくる時間にいつも居ないんだもん。……ところで、そっちの人、ダレ?」
 状況に置いてけぼりにされて戸惑っていたのか、ラニアよりもメディが先に声をあげた。
 「ラニア君っていうの。お姉ちゃんの新しい友達。かっこいいでしょ?」
 ラニアはかっこいいと言われた事が嬉しかったのか、自己紹介の言葉を引っ込めて顔を赤くし、そのまま俯いてしまった。
 「……ふーん、今日食べてくの?」
 カスカはいかにも面白くないと言いたげな感じでそう言って、値踏みするような目でラニアを見た。嫉妬だろうか、なるほどかなりのお姉ちゃんっ子のようだ。
 「あ、いただいていきます。カスカさん、よろしく」
 自分より年下という事を知らないせいか、ラニアはすっかり萎縮して敬語で答えた。その様子を見て私はついふきだしそうになる。こんなに覇気の無いラニアを見るのも初めてだ。
 
 四人で囲んだ食卓はとても賑やかだった。私にとって、こういう夕食の光景は本当に久しぶりの事で、とても嬉しかった。それに、メディの料理はどれもとても美味しかった。カスカが毎日メディのところに泊まっている理由のひとつはわかる気がする。
 「これ、超おいしいです!メディさん!」
 しかしラニアの言い方は大げさすぎる気がする。こんな感じでラニアがメディの料理を褒める度に、メディは花が咲いたような笑顔でお礼を言い、そしてその度にカスカはじとりとラニアを睨んだ。ラニアはカスカの視線には気づいていないようだったが。
 食事が始まってから、メディも妙にラニアに話しかけていて、二人は何だかまるで恋人同士のように見えた。
 「そういえば、メディさんとカスカちゃんは姉妹なのに、どうして寮の部屋が違うんですか?」
 私がそう聞くと、メディが答えた。
 「私たち、学年はひとつ違うでしょ?私が四年で、カスカが三年。カスカが入学した時、部屋が余ってたみたいで。それで私が希望して別の部屋にしてもらったの。ほら、シンルちゃんは知ってるでしょ。カスカの散らかし癖」
 私は私たちの部屋の惨状を思って苦笑した。なるほど。それで中途半端な時期に入学してきた私が被害にあってしまった訳だ。
 「カスカちゃん、部屋に居なくても存在感はばっちりです」
 それにしても、こういう事だったなら、『勉強場所を差し出すから研究チームに入らないか』という取り引きはずいぶんと理不尽なものだったようだ。この人は意外と侮れない。
 「これも旨い!メディさんって料理が上手なんですね」
 ラニアがまた大声で言った。もう同じ事を何度も言っているのだが、メディは律儀にも答える。
 「ありがとう、よかったらまた遊びに来てくれてもいいのよ。毎日でもね」
 「……!!はい、また来ます」
 ラニアはそう言って、私の方を向いて少しだけ微笑んで目配せした。私は一瞬、どういう意味か計りかねたが、考えてみれば、多分『この話に誘ってくれてありがとう』という意味だったのだろう。
 ……なんだか胸がもやもやする。
 「…あら?どうしたの、二人とも怖い顔して」
 と、不意にメディが言った。どうやら私とカスカに言ったようだ。カスカはともかく、私もいつの間にかそんなに怖い顔をしていたのだろうか?
 「えっと、そんな事ないです、なんでもないです」
 私はあわててそう答えて、誤魔化したい訳でもないのに、空っぽのコップを深く持ち上げて中身を飲んでいる振りをし、顔を隠した。
 「……おねぇちゃん、私帰る」
 と、カスカが不機嫌丸出しの低い声で言った。私が驚いてカスカの方を見ると、カスカは今まで見た事のないような怖い顔をしていた。場の空気が凍りついた、と思ったらぎょっとしているのは私とラニアだけで、メディは相変わらずニコニコとしていた。
 「…カスカちゃん、どうしたの?」
 私が居た堪れなくなってそう言うと、カスカはきっと私の方を見た。
 「シンルちゃんも、今日は帰ってこなくていいから!ここに泊まってよ!一人にして!」
 カスカはそう言ってばっと席を立ち、玄関に向かって歩きだす。私はおろおろしてメディに助けを求める視線を送ったが、メディは場違いなくらい気の抜けた声で『一人になるんだから、戸締りはきちんとするのよ~』なんて言っている。
 程なくして、バタン!と玄関の扉が勢い良く閉められる音が響いた。私とラニアが呆然としていると、メディが手をぱちぱちと叩いて話し始めた。
 「はい、これで実験の半分が無事終了しましたぁ。二人とも、お疲れ様。あの子にはちょっと悪い事しちゃったけど、そろそろお灸を据えてあげなきゃね」
 「ただご飯を食べてただけですけど…。カスカさんは何で怒ったんでしょう?俺、妹さんに何か悪い事しちゃいましたか」
 ラニアは状況が掴めずただ慌てているが、私はメディの性格やカスカの癖についての知識で一日の長がある分だろうか、直感的にメディの言いたい事がわかり始めた。
 混乱した頭を無理やり高速回転させてつじつまを合わせる。メディが食事中妙にラニアに話しかけていた事と、その事でカスカが明らかに不機嫌になっていた事。これが実験だったなら、つまり…
 「メディさん、ラニアに布いた陣って、どんなものなんですか?」
 私が一番気になっていた点を聞くと、メディはにやりと笑って答える。
 「呪詛返しの陣の一種よ。なんと前もって布いておくだけで、送られて来た呪詛を勝手に返しちゃう優れもの。身体に直接描き込めるから、自由に行動出来るのも新しいところなの。ただ、呪詛を送ってくる相手や呪詛の種類を特定して布陣しないと効果しないのが玉に傷ね。カスカは部屋に戻ってすぐやっちゃうつもりみたいだから、もうすぐ起動するんじゃないかな」
 これで完全に理解出来た。なんとまあ、研究室の怪談の正体はカスカだったのだ。多分、メディが研究室の件で困っていた頃、カスカはそのシスコンっぷりを発揮して研究チームに入ったメディのファン達を次々と呪っていったのだろう。というか、そうとは知らなかったものの、ルームメイトである私は過去にその現場を何度か目撃している。私の周りはとんでもない人ばかりだ。
 私が真相を察したのが表情でわかったのか、メディは私に向かって悪戯っぽい笑みを浮かべる。
 「シンルちゃんは、感が良いのね。言っておくけど、研究室の頃のは、私が指示したんじゃないのよ。カスカがやっていたのに気付いたのは、みんな辞めちゃって一人になってからなの。本人に聞いたら、怒られると思ったのかしらばっくれられちゃったけどね。だけど元々、私は一人で研究する方が性にあってたみたいだし、また新しい人が来てカスカにやられちゃうのも可哀そうだと思ってね、研究室の呪いって事にして噂を流してみたら、効果抜群だった」
 私は、メディは実は相当に腹黒い人物なのかも知れないと思い始めていた。本当は研究室の頃からカスカの事に気付いててやらせてたのではないかと予想してしまうが、恐ろしくて言葉にする事が出来ない。
 「……どういう事?カスカは何をしに帰ったんだ?」
 ラニアは一人事情が掴めずに困惑している。面白いので私はそれを無視した。
 「というか、メディさんが困っているだけで呪っちゃうって、カスカちゃんって本当にすごいお姉ちゃんっ子なんですね。魔法に覚えがある人を30人も呪詛掛けして、バレなかった事もすごいですけど」
 「あの子は呪術の腕だけは確かだからね。何かと呪い、呪いって…、そりゃもう今まで恋人を作る事も出来なかったわ。まあ、この陣が成功すれば、これからは自由ね」
 私は現時点でこの姉妹に深く関わってしまっている事を激しく後悔した。しかし逃げる事は出来そうにない。この夕食内のラニアとメディの会話だけですら、カスカは軽く沸点を超えてしまっているのだ。私がメディの勧誘の話を断ったら、どうなる事やら…。
 そういった些細な事、実験の内容やカスカと姉妹である事等を隠していたのが全てメディの計算なのだとしたら…、とここまで考えて、私はその先を考える事を放棄した。
 メディからすれば、これで必要最低限の人数で研究室は存続され、役に立つが時々暴走する妹の制御も出来るようになり、助手も手に入れた事になるが、そもそも最初からそういうメディのシナリオだったとしても、私にも少しは利益があるはずだし、これ以上考えると、メディの笑顔を可愛いと思えなくなりそうだ。
 
 と、ラニアの背中、服の中の陣がやわらかい光を放ち始めた。私とメディがそれに気付いて注目する。と、ラニアはやっと事態が飲み込めてきていたのか、わなわなと震えて私達の顔を交互に見つめた。
 「おいおい、さっきのその話だと俺今から呪術掛けられるんじゃないのか!?それって大丈夫なのかよ!?メディさん今『成功すれば』って言ったけど、それって…」
 「うん、初めての実験なの。でも大丈夫よ。きっと成功するから」
 メディが邪気の無い声であっけらかんと言い放つと、ラニアの顔が見る見る青ざめていく。
 「そっそれ…、あぶなっ…!!い、今からでもカスカさんの部屋に行って止めましょう!!…あっ、シンルお前カスカさんと同室なんだよな!!案内しろっ!!」
 「やーだよ。というか、もう遅いって。自分の背中見てみなよ」
 私は思いっきり舌を出して言ってやった。さっきの話だと、メディがラニアの事ばかりかまっていたのは、気に入ったからではなく、カスカを怒らせる為だったのだ。ざまあみろ。
 ラニアは首を思いっきり右に捻って背中の光を確認し、恐怖で今度は顔を真っ赤にした。
 「メ、メディさん、これどうなってるんですか!?どうなってるんですか!?」
 「大丈夫よー。今ちょうど呪詛返しが発動してるところなの。多分もうすぐ光も消えると思うわ。それより冷めちゃう前に夕食を片付けちゃいましょう」
 ラニアとは対照的にいつも通りの調子でメディが言って、食事を再開する。私も食事を再開するが、ラニアはよっぽど呪いの類が苦手なのか、それどころでは無いようだ。まあ、私も同じ状況なら落ち着いて食事する気分にはなれないが。
 
 程なくしてラニアの背中の陣は光を失った。メディは陣の確認もせず、のんびりと私に言う。
 「シンルちゃん、食事が終わったらカスカの看病に行ってくれるかな。今回はそんなに強く相手に返すようにしてないけど、きっと丸二日は寝込んじゃうと思うな。
 あ、それから、カスカが治ったら研究室に来てね。手続きしなきゃいけないから」
 メディが、私の事をすでに研究チームに入った事にして話をするのは今に始まった事ではないが、今回はもうそれに反発する気が起きなかった。
 「そういえばラニア君も特待研究生なんだよね。シンルちゃんと一緒に入る?」
 「いえ…、遠慮しておきます」
 可哀そうに、ラニアはすっかり肩を落としてしまっている。私はその様子を見て吹き出した。
 ちょっと安心したような気もするが、自分が何に安心しているのかはよくわからない。
 それよりも、これからの事の方が百倍不安なはずなのだが。
 
 
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