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偽造ほんわかABCD

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槍兵への愛着MAX
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11/4 RAID5さん主催の突発大会に参加しますた。
戦歴は12戦 3勝 9敗 の10人中8位。
うふふ…つД`)

使ったデッキはほぼ一種類。ハナアルキじゃないステロイド。
ルール的にハナアルキが多そうと読んで、除去を多めに積んだもののこれが大ハズレ。なんやら色々なデッキと当たれてまた新しい世界にたどり着きました。そろそろ称号を「初心者→新兵」にランクアップ?しよう…。

さて、現在ABCD小説を執筆中です。
しかもわりと大真面目なヤツなので公開するのがしんどいです。
(だってABCDプレイヤーって色んな意味でセンスが肥えてそうなんだもん。
文才とかセンスとかまったくないのにかっこつけて真面目に書いてるので、「しょっぺー」って思われる可能性大。
生ぬるく見てあげてください。お願い。もう文才ないのは認めるので、どうか元ネタ探しを楽しんでください。

って事で、小説は別サイト作ってそこでうpしようと思っているのですが、なにぶん、筆が遅い上に、書き直しが多いものですから、書いたヤツから速攻うpしていくと後で恐ろしい事になりそうです。

なので、今回はブログに、初回お試しの第一話を乗せて、みなさまの反応がよければ、別サイトに小説をうpしていこうと思います。

一話というか、プロローグ部分のみですので、「なんのこっちゃ?」ってなりそうだけど…。
ちなみにタイトル未定です。

そんなお試し第一話は続きから。


 プロローグ Ⅰ


 子供の頃、母に本を読んでもらう事が好きだった。
 母はとてもたくさんの本を持っていた。『はなあるきのいのり』…『緋の鋼』…『帝国史』…。ほとんど毎日、夕方になると、私は本を胸に抱えて母の帰りを待った。書斎のほとんどの本を一度は読んでもらい、中でも気に入った本は何度も何度も読んでもらった。母はいつもいやな顔一つせず、私をひざの上に乗せてゆっくりと本を読んでくれた。私は今でも、母と暮らした家にあった全ての本のタイトルをそらんじる事が出来る。
 私と母が住んでいた所は、アリサドの東部にある小さな農村で、観光地でも名産地でもないその村は、外部との交流などないに等しく、もし、母に本を収集する趣味がなければ、またはもし、私が母の持つコレクションに興味を示さなければ、私は外の世界の事も文字の読み方も何も知らないまま、ただ農家の一人娘としての人生を歩み、『あの日』に、何が起きたのかもわからないままに死んでしまっていただろうと思う。
 物心がついてきた頃、私は母から読み書きを習い、一人で本を読むようになった。自分の目で本を読む事で、私は自分が本に綴られた様々な歴史や物語の登場人物になったような感覚を覚え、空想は膨らんだ。
 そして、書斎にある五百あまりの本を読み尽くし、そのほとんどの内容を記憶した頃、私の外の世界への興味は抑えがたいものになっていた。しかし、母が本の入手先としていたアリサドの西の丘を越えたところにあった都市は、私が生まれるよりも昔の戦乱でなくなってしまっていたし、その後もたびたび起こる戦乱によって荒れ果てたアリサドの周辺は、ヌーティヌと呼ばれる大型犬ほどの大きさの凶暴な野獣の住処となっていて、子供一人が村から外に出る事はほとんど出来そうになかった。
 唯一、この村で外部との交流があるのは、年に一度か二度、赤国の軍隊が行軍中に立ち寄る時だった。小さい村だったが、広大なアリサドの大地で他に補給できる場所がある訳ではない為、戦争時には必ずここを立ち寄っていた。
 軍隊が立ち寄る度に、村の人たちはしぶしぶ水を分け与えて、兵士達の寝床にする為に畜舎を開放した。正直なところ、村の人たちは、同じニンゲン族というだけでほとんど義理のない彼らに、そんな事をしたいとは思っていなかったのだと思う。しかし、私だけは違った。軍隊が来る度に、畜舎で寝ず、村人の家を半ば強引に借りてベッドで眠る数人の赤軍兵士(後で知ったが、その人達はある程度、位が高かったらしい)を目ざとく見つけては、積極的に自らの家に招待し、彼らから外の世界の話を聞いた。ほとんどの場合、彼らは私の母から振舞われた地酒を片手に、滝のような私の質問に快く答えてくれた。(故郷に残している子供の事を想ったのかもしれない)そしてほとんどの場合、私がしがない農村の娘としては異常なほどの知識を持っている事に驚いた。
 
 村にやってくる軍隊の上官から最後に話を聞いたのは、私が14歳になったばかりの頃だった。その時は、いつもの二倍近い数の兵士が村に立ち寄った。隊の中には、見た事のない種族の小隊や、本で読んだ角鬼達の姿も見えた。普段よりも人外部隊の数が多く、動物的な臭いとうめき声で隊は混沌としていた。ニンゲン兵の一人一人からも、一種異様な気配が漂っていて、私はすぐに、歴史が動くような大きな出来事があるのだと直感した。私は村人に向かってなにやら指示している兵士の横に、前に一度家に招待した事のある上官の姿を見つけ、駆け寄って腕を掴んだ。
 「おじさん、今日はウチに来てよ!」
 と、言い終わらないうちに、村人に指示していた兵士がすごい勢いで私に近づき、手を振り払って叫んだ。
 「ガキ!上官殿に触るなっ!家に帰ってろ!」
 私は、突然の出来事にわけもわからず、びくっと一度震えて、動けなくなった。兵士に振り払われた手が熱い。もう少しで涙がこぼれかけた時、上官が兵士よりももっと大きな声で叫んだ。
 「この無能、無能がッ!テメェはお世話になった村人の顔も忘れちまったのかッ!前の戦争の時にこの子の家はすすんで俺を泊めてくれた上に旨ぇ酒まで振舞ってくれてンだよッ!上官の恩人は部下の恩人だろうがッ!恩を忘れるテメェこそ家に帰りやがれッ!二度と志願するンじゃねぇ!」
 「は…、ハッ!失礼致しました!」
 兵士は真っ青な顔で敬礼し、私にも大声で「失礼致しましたッ」と敬礼して逃げるように後ろに下がった。私はというと、あまりに予想外な出来事に呆然として、こぼれかけた涙まで引っ込んでしまった。上官は立ち尽くす私の頭をぽんぽんと軽く叩き、
 「わかった、今日はお嬢ちゃんのところにやっかいになるよ。お嬢ちゃんの事だから、また色々聞きたい事があるんだろう?」
 と、嘘のように穏やかな声で言った。私は緊張が一気にほぐれ、ふにゃふにゃと頷いた。
 「よしわかった、何でも答えてあげよう。そのかわり、またあの旨い酒を呑ませてくれよッ!」
 上官はまた私の頭をぽんぽんと叩き、豪快に笑った。
 後ろで直立不動の姿勢を保った兵士達の間から、「あの『怒りの上官』殿が…、笑ってる…」という声が聞こえた。
 
 結局その日、村の畜舎を殆ど開放しても兵隊全ては入りきらないという事で、村人の協議の末、得体の知れない人外の部隊を家畜と一緒に外で寝させるのも、自分達と家で寝させるのも嫌だという事になり、畜舎を人外の部隊に当て、村の家々に出来るだけのニンゲンの兵士を迎え入れる事になった。その結果、私の家には四人の上官達が集まる事になり、私は世情に詳しい上官達から存分に話を聞く事が出来た。
 彼らの話によると、赤国は今まで、様々な種族で構成されていた国、帝国と戦ってきたが、帝国は私が生まれる前の戦乱によって滅亡し、(その、元帝国の首都が、母が本を収集していた都市で、私はそこまでは『帝国史』を読んである程度知っていた)その後は、アリサドの北に位置するネバタ砂漠に逃げ延びた帝国残党を討伐していたが、最近、帝国残党がネバタ砂漠よりさらに北のメルタの地で新たな国を興し、理由は不明だが、何らかの力によって急速に武力を整え始めているという。
 
 「でも、メルタって生き物達にはすごく生き辛い所じゃないの?」
 「噂通り、本当に物知りなお嬢ちゃんだ!あの角鬼どもに見習わせたいよ!」
 大柄で、胸当てをつけたままの男が鉄のジョッキを机にドンドンと叩きつけながら言った。私は少し馬鹿にされているような響きを感じてむっとした。大柄な男の隣に座っていた物静かな男が、「お前にも見習わせたいね」と言いたげな表情で大柄な男を一瞥して、答える。
 「その通りだ、娘。しかしそれは最近の研究で少し見方が変わってきている。」
 「最近の研究って、どんな?」
 「地相学研究だ。地相学によると、もともと世界には場所毎に地相というものがあり、生きるもの達は常にその場所の地相から影響を受けているらしい」
 「私達もそうなの?ここにも、えっと、ちそう?…があるって事?影響ってどんな?」
 私が一気に聞くと、物静かな男は少し俯き加減でゆっくりと煙草を吸い、同じようにゆっくりと吐いた。それから一呼吸おいて、答える。
 「もちろんニンゲンも例外ではない。ニンゲンにも、その他の種族にも、生まれ持った地相との相性があり、その相性から大きく外れる地相を持つ場所では、生命力が弱り、繁栄する事が難しいらしい。それから、地相は魔法とも深く関係している。今まで未知だった魔法のエネルギーは、地相から得ているとされるのが最近の考えだ。この村付近は様々な地相が交じり合っていて、何かが強く出ているといったわけでもないが、昔、帝国の首都があった場所は、闇と風の地相が強く出ている」
 「じゃあ、メルタは?」
 「ハルトゼイネルによると、闇の地相がとても強い、という見解だ。もともと、帝国より南にしか領土のなかった赤国には、闇の地相が殆どなく、今まではメルタの地は生きるものの住む場所ではないと言われていた。しかし、もともと闇の地相も持っていた帝国で暮していたものたちには、適応できる可能性がある。…そもそも、生きるもの達は自分達に合った地相でこそ生きるべきなのだから、このような侵略など…」
 物静かな男がそこまで言うと、また大柄な男がジョッキでドンと机を叩いた。
 「ハルトゼイネルのお偉いさん達の言う事は俺にはわからんね!お前もそんな簡単に信じるもんでもねぇぜ。だいたい大統領だってその話はまゆつばだって言ったらしいじゃねぇか。これからぁニンゲン様の時代だよ!どこだって生きて見せらぁ!」
 大柄な男は一気にまくし立て、ジョッキをぐいっと傾けてから、首をかしげた。そして、うって変わって人懐っこい声で「かあさん、まだ酒ある?」と言い、台所に立っていた私の母が「もう酒樽ごとそっちに持ってってくださいな」とやけっぱちで言うのを聞くと、ニィッと笑って立ち上がった。
 物静かな男は肩をすくめて、うんざりだ、というポーズをしたきり黙ってしまったので、私も少しの間、黙って料理をつついた。母は、兵隊さんといえども立派な客だと認識しているのか、机に並ぶ料理はいつもより豪華だ。ヌマイノシシのステーキなんて、いつの間に用意したんだろう。私は一時、臭み以外は言う事なしのステーキの味を堪能した。私の質問が止んだのを確認してか、昼間話した『怒りの上官』と、この中で一番偉いように見える立派な軍服を着た女性が小声で話し始めた。
 「…隊長、自分は未だ今度の作戦に納得がいきません。何故、部下達に目的を不明瞭にせねばならないのでしょうか?」
 「最終的な目標はメルタに興った新勢力の打倒、これに間違いはある?」
 隊長と呼ばれた女性は、澄んだ、それでいて有無を言わせない圧力を持った不思議な声色をしていた。
 「しかし、もしメルタの地で帝国残党が急速に発展した理由があれの存在によるものなら、兵士達の危険は本人達の予想よりも遥かに…」
 「最初からみな、命を懸けている。それに、もしメルタの地であれを確認しても、あれを倒すだけ。兵士達にとっては、敵が何であろうと関係ない。頭は物事を知る必要があっても、手足が物事を知る必要はない」
 「しかし…」
 歯切れ悪く食い下がる昼間の上官に対して、隊長ははっきりとした声でそれを制する。
 「それに、今回はあれがいる事も想定した戦力を揃えている。サルトル、そうでしょう?」
 サルトルと呼ばれた物静かな男は、『怒りの上官』を横目でちらりと見てから話し始めた。私はヌマイノシシの肉を頬張ったまま、上目遣いでその様子を伺ったが、サルトルの表情は読み取れなかった。
 「はい、私の考えうる最悪の事態を想定しての戦力です。メルタの地に相性の良い人外部隊の割合も高くしておりますゆえ、万一の場合にも我が軍が力で負ける事はありません」
 「サルトル殿、しかし今回は緊急召集した兵達です。寄せ集め感も否めず…」
 ここまで話したところで、大柄な男が笑顔で酒樽を担いで帰ってきた。『怒りの上官』と隊長はどちらからともなく席を立ち、外に出た。私は興味深々で聞き耳を立てていたので、無邪気な顔で酒樽を開けようとしている大柄な男を恨んだ。
 大柄な男は、酒を一口呑んだ後、やっと状況を把握したのか、急に不安そうな声で、
 「なあサルトル、俺もしかして隊長怒らせてる?かあさんに迷惑かけちまったからかな?隊長たちそれで出てったの?」
 と聞いた。サルトルは、ふっ、と失笑し、煙草の煙をゆっくりと吐く。
 「なあサルトル、どうやって謝ったら良いんだよ、隊長なんてべっぴんさんなのに怒るとすげぇ怖ぇんだ。もう次はねぇって言われてんだぞ。お前頭良いんだから教えろよ」
 「…。あとで、『不味い酒を樽ごと持ってきてごめんなさい』って言ったらどうだ」
 私は思わず吹きだしてしまった。隊長たちはそれを聞いたときに本当に怒るだろう。サルトルは、美味しく頂いてますよ、と言うように、ジョッキを軽く持ち上げて私に目配せし、にやりと笑った。大柄な男は、わけがわからないといった様子で、「旨ぇと思うけどなぁ…」なんてブツブツ言いながら、そわそわと窓に近づいて外の様子を伺おうとしていた。
 
 
 次の日に、軍隊は意気揚々と北へ旅立っていったが、彼らはわずか一ヶ月でその数を10分の1以下に減らして村に帰ってきた。帰ってきた多くの人々が深く傷ついており、村は騒然となった。この時ばかりは村のみんなが協力して、負傷した兵士達を家に運び込み、必死に看病した。といっても、外部との交流のない小さい村に、確かな技術を持った医師も効果的な薬もあるはずはなく、どの家も、ただベッドに寝かせて包帯を巻き、薬草を煎じたスープを飲ませるぐらいの事しか出来なかった。
 母は、昔も同じような事があったから慣れている、と言って、きびきびと周囲に指示を出しながら自分も働いた。私も母の指示で、水や包帯や塗り薬を家々に配り歩いたり、足に深い傷を負った兵士に肩を貸したり、彼らの血や膿に染まった布を洗ったりして、忙しく働いた。
 私の家には、出発の前夜に話した上官達が集まったが、そこに、『怒りの上官』の姿はなく、残る三人も、大柄な男はかなりの重症、サルトルと隊長は軽症を負っていた。私は必死で大柄な男の看病をしたが、大柄な男はベッドに寝かされてすぐに意識を失ったきり、時折子供のようにうなされながらずっと眠っていた。
 夜になると、村の外から、不気味な唸り声が断続的に響き始めた。唸り声は四方八方から聞こえてくるようだった。ずっと聞いているとふつふつと怒りが沸いて、胸がむかついてくるような、耐え難い唸り声。血の匂いに誘われたヌーティヌの群れが村を囲んでいる事は間違いなかった。
 私は唸り声のせいで眠れず、眠れないならいっそ、と思い、大柄な男のベッドの横に腰かけ、時々、大柄な男の額に浮かんだ大粒の汗を拭いながら、助かりますように、と祈っていた。と、夜中を過ぎた頃に、隣の部屋で隊長とサルトルの話し声が聞こえ始めた。私はそれにそっと聞き耳を立てる。
 「やはりマリスが絡んでいたか…」
 「はい…。そこまでは予想出来ていながら…不甲斐ない…」
 「しかしマリスがあれほど強大な魔力を持っているとは…」
 「はい、それにあの姿が変容する魔獣…。剣で切りつければ、二度目には身体が剣を通さず、焼き落とそうとすれば、最初は燃えていてもすぐに燃えなくなる…。明らかに改造の加えられた生物です。まだ未完成のようでしたが、赤国にもあれほどの技術力は…」
 「サルトル、これは完全な敗北よ。私は国に帰れば罰せられ、命はないわ…」
 「隊長殿…、私も同じ立場です。しかし私達はこの現状を報告せねば…」
 「いや、お前は国にとって失えない才能だから、罰は受けようとも、殺される事はない。デルフォイはあの傷では助からないだろう…。だが私はまだやらなければならない事がある。だからどうか、お前だけ帰って、私はメルタの地で死んだと伝えてくれないか…」
 「隊長殿…」
 
 私は息を潜めてずっと彼らの会話を聞いていたが、明け方にヌーティヌの唸り声が止んだ頃、強烈な疲れと眠気を感じ、いつの間にか大柄な男に覆いかぶさるようにして寝てしまっていた。
 
 二人から盗み聞きした話によると、今回のメルタ侵攻は、赤軍側の完全な敗北で終わったようだった。ネバタ砂漠とメルタの地の境界線に陣を敷いた赤軍は、偵察部隊から、帝国の残党はマリスと呼ばれる強力な指導者を新たに得、多種族混成の国家として既に一定のレベルにまで到達しているという情報を得る。しかし、出発前にサルトルが言った通り、単純な武力では赤軍が勝っている。そう判断した隊長は全軍に突撃を命令。赤軍とマリス軍は、メルタの地の入り口、キルリアンにて激突する。最初こそ、赤軍の突風隊とマリス軍のゴブリン部隊が正面からぶつかり、赤軍の思惑通りの総力戦の様相を呈していたが、赤軍がゴブリン部隊を壊滅させて勢いをつけ、大きく敵陣に踏み込んだ時、戦場の上空に、空を切り裂くようなマリスの呪言が響き渡り、戦況は一変した。

 ――汝ら 御霊の怨嗟響く鬨を聴け
   弐眼の愚か者よ 彼の地を見よ
   彼の地こそ新たなる闇の聖域なり
   生者は弁えよ 弁えぬなら 血の祝杯となるがいい――

 その呪言の効果は絶大で、マリス率いる闇の軍勢は一人一人が恐ろしい怪力を発揮するようになり、赤軍は一気に押し返される。戦況が不利と見るや、赤軍の人外部隊は四散し退却。中には赤軍を裏切るものまで出始める。赤軍の僧兵達の治癒魔法も、メルタの地ではまったく役に立たず、マリスの呪言が響き渡ってから、戦況がほぼマリス軍の勝利濃厚となり、隊長が退却の決断をするまで、30分もかからなかった。
 その時点で半数以上の兵を失っていた赤軍は、退却戦でも敵陣に深く踏み込んでいた事が災いし、多くの兵を失った。(この時、『怒りの上官』の部隊はしんがりをつとめ、部隊の大半は死亡。混乱の中、上官自身も行方不明となってしまったらしい)そして、ようやくネバタ砂漠に逃げ込んだ時には、もはや無傷の兵士は一人もいなかったという。
 それから村までの道のりでも、多くの兵が死んだ。傷ついた兵には辛すぎる砂漠。アリサドに入ってからは、ヌーティヌの群れに執拗に追い回され、四六時中あの唸り声を聞かされ、発狂してヌーティヌの群れに飛び込んだものもいた。
 ヌーティヌたちは獲物を見つけると、群れで順番に唸り声をあげ、アリサドの荒野を渡るものの精神を侵して弱らせてから襲い掛かるが、死体を漁っている間だけは、唸り声が止む。
 唸り声のせいで眠れず、共倒れを恐れた赤軍兵士達が、何とかしようと出した答えは、死んだものや、もはや助からないものを、後方に置いていく、という、凄惨なものだった…。

  
 身体を揺さぶられて目が醒めた。というより、大柄な男がうなされ、暴れたことで身体が揺さぶられていた。私は寝ぼけていて、いつもの朝のようにのんびりと目をこすり、背伸びをしようとし、視界に大柄な男が映ったところで、昨日の事を思い出した。大柄な男は血を吐いて悶えている。私は慌てて母を呼びに行った。それから、今はどうでも良い事だが、私が珍しく心底、後悔した事としてここに書かせてもらいたい。初めて、しかも嫁入り前に男と一緒に寝てしまった。

 私が母を起こしてベッドに戻ると、大柄な男の異変に気付いた隊長とサルトルもベッドの前に現れていた。大柄な男は意識を取り戻したようで、ぜいぜいと荒い息をはきながら母の方を見た。母はおびただしい量の吐血を手際良くふき取り、大柄な男の胸や腕に手を当て、難しい顔をした。
 「アリ…ス…。アリスか…?」
 と、大柄な男がうわごとのようにか細い声で言った。母は意味を掴めず、黙って大柄な男の手を握っていた。
 「亡くなった妻の名だ」
 後ろで様子を見ていた隊長が言った。私は一瞬、何の事かわからなかった。
 「アリスはそいつの、…デルフォイの妻の名だ。病気で亡くなってしまったが、デルフォイは行軍中、ずっと、貴方の事を、妻にそっくりの美人だった。なんて言って騒いでいた。だから、少しの間、そうしてやっていてくれないか?」
 隊長は節目がちになりながら続けた。いつもの威圧的な声ではなく、どこか湿ったような寂しい声だった。
 「わかりました。…デルフォイ、私はここにいますよ」
 母は力強い声で言い、デルフォイの手を握ったまま、自分の胸に当てた。
 私はやっと、この人は助からない、という周りの空気を悟って、愕然とした。『怒りの上官』のような漠然とした死ではなく、確かな死がここに迫っている事に気付き、身体が震えた。
 デルフォイは、しばらく目を閉じて黙っていたが、突然、くっく、と喉に何か引っかかったような低い声で笑い出し、言った。
 「いや…。すまないね…。…すまない。アンタの事、かあさんなんて…呼んじゃって…。アンタの料理の味も、姿も、声も、何もかもそっくりで…懐かしかったんだ…。ホント。それで…俺…、見ず知らずの人に、かあさん、なんて…。くっ…。くっくっく…」
 デルフォイはまたくっくと笑い、咳き込んだ。今まで聞いた事のない、暗くて重い響きの咳だった。私は脚の辺りから力が抜けていき、立っていられないような眩暈を感じた。
 「いいえ、デルフォイ。悪くなんてないわ。恥ずかしい事でもない。私も夫を失ったからわかるの。私の事をアリスだと思っていいのよ」
 母は泣いていた。私の父は私が幼い頃に亡くなっていたので、私は父がどんな人物だったのかを知らない。愛情は母から充分に受け取っていたし、母は自分の夫の話をほとんどしなかったので、この時の私に、母がどんな想いでその言葉を言ったのか知る術はなかった。
 それきりデルフォイは静かになり、いよいよ、という空気が漂った時、私ははじけるようにデルフォイの身体に飛びついていた。今でも、その時の私を突き動かした感情がどんな種類のものであったのかはわからない。もしかしたら、デルフォイを亡き父と重ねたのかもしれない。
 「輪廻を紡ぐ天使よ、ひとときの生を許したまえ、始原の園の統治者よ、今一度この者に慈悲を与えたまえ、汝の下に降りたたん、傷口を鬱ぐ淡き光!……輪廻を紡ぐ天使よ、ひとときの生を許したまえ、始原の園の統治者よ、今一度この者に慈悲を与えたまえ、汝の下に降りたたん、傷口を鬱ぐ淡き光!」
 私は泣きじゃくりながら、デルフォイの身体にしがみつき、必死にいつか読んだ本に書いてあった魔法の詠唱文を唱えた。何度も、何度も、繰り返し。いくら抑えようとしても嗚咽が止まらず、情けない途切れ途切れの詠唱文が部屋に響いた。
 デルフォイが、弱々しく私の頭に手を乗せた。
 「…お嬢ちゃんは、本当に物知りだな…。でもそんなの良いんだよ。魔法ってのぁ…才能あるヤツが訓練してやっと使えるようになるんだぜ…。でも、お嬢ちゃんならいつか使えるようになるかもな…。ありがと…うな」
 それでも私は詠唱を止めなかった。母が私の背中に余っていた方の手を置き、ゆっくりとさすった。嗚咽はいよいよ抑えられず、もはや自分が何を言っているのかもわからなくなった。
 「ヒーリングか…。しかしそもそも光の地相の弱いこの地では、どんな術士でもその術式を完成させる事は…」
 サルトルが静かに言ったが、私にはもう何も聞こえていなかった。
 輪廻を紡ぐ天使よ、ひとときの生を許したまえ、始原の園の統治者よ、今一度この者に慈悲を与えたまえ、汝の下に降りたたん、傷口を鬱ぐ淡き光…。頭の上に乗せられたデルフォイの手のひらから力が徐々に失われるのを感じながら、私はひたすらに唱え続けた。

 ――輪廻を紡ぐ天使よ ひとときの生を許したまえ
   始原の園の統治者よ 今一度この者に慈悲を与えたまえ
   汝の下に降りたたん 傷口を鬱ぐ淡き光――

瞬間、淡く透き通った、瑠璃色の光がベッドを包んだ。


お試しなのにここまで読んでくれてありがとう!
こんなのでも、応援していただけるならがんばりまふ(´・ω・`)

こんなところでちょうか。
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面白いです
ブログでははじめまして。
先日の突発大会では、対戦ありがとうございました。
いつもRomってばかりですが、ReadMoreを押すのを楽しみにしています。


小説を読ませていただきました。
読ませますね!魅力ありますよ。
全体の空気がなんかすごく良く伝わってきます。
テキストや絵の世界観からこれほどまで構想を膨らませられることに感動してしまいました。

とても期待してます。
これからもがんばってください~
K_Nine 2007/11/04(Sun)18:56:08 編集
カコイイ!
先生・・・続きが読みたいです・・・
NAK 2007/11/05(Mon)00:00:40 編集
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